一二 辰年の伝説さまざま

 今昭和三年は辰が幅を利かす歳だから、辰に関する伝説を述べることとしました。古来越中各地に言い囃(はや)され、
自分も幼い頃寝物語に、年寄から聞かされた話も少なくはありません。今から考えると、昔は世の中開けず、理科的知識に乏しいので、烈しい旋風が海では水を、陸では土砂をまき上げて柱をたてたようになつて空へ昇る。所謂竜巻(たつまき)を見て全く竜が天に昇るものと信じました。なお日本海に沿うている海辺の漁師どもが富山湾へ漁に出て『辰の落し子』という長さ一、二寸から三、四寸位、首は馬に似て形は蛇のような小さい動物が折々網にかかるので、これを竜の子だといい、いよいよ伝説の竜の存在を確めました。
 仏法の伝来に伴い、妖僧が宗旨を拡める手段に使い、色々人事上の怪談をこれに絡みつけ、愚民を惑わしたものらしく、しかしその中には教訓を含んだものもあつて棄てられないものもあります。これから古い越中の人は如何に竜を取扱いましたか、古い本にかき残されたものを拾いあつめて、お正月の慰みに供しましよう。