![]()
中新川郡
昔、ある寺の小僧が修行の旅に出ることになった。和尚は心配して、色々話を聞かせた上、
「旅でもしも弱ったことがあったら、この札投げてみっしゃい」
と、言って御守り札を3枚持たせた。小僧はそれを懐に入れて出かけた。ある時、日が暮れたが、どこにも泊まる所がなく、困っていたところ、ずっと向こうに百姓家の小さな灯りが見えた。やれやれ、と疲れた足を引きずってどうにかそこまで行き着いた。灯りの洩れている破れ戸をトントン叩くと、人の良さそうな婆さんが出てきた。
「旅の者じゃが、どうか一晩泊めてくれっしゃい」
と、頼むと、
「おお、そりゃ疲れたろう。いくらでも泊めて進ぜる。さぁいらっしゃい」
と、言うので、喜んで入った。ところが、寝床へ入ってうとうとしていると隣の部屋でガサガサと変な音がする。小僧が床から這い出してそっと覗いてみると、そこに見えたのはさっきの人の良い婆さんではなく、恐ろしい鬼だった。小僧は、逃げるなら今の内だ、と思い、小便に行くフリをしてその家から逃げ出した。逃げたのがわかると鬼は髪を振り乱しながら追いかけて来た。小僧は足がすくんでしまってなかなか思うように走れない。もう少しで捕らえられそうになった時、和尚から貰った御札を思い出し、一心込めて、
「えいっ!」
と、力いっぱい投げつけた。すると鬼の目の前に大きな山ができたので、鬼は小僧を捕らえることができなかった。そこで鬼は大きな山をヨッソヨッソと登って、また追いかけて来た。その間、小僧も走り続けていたが、もうよかろう、と思って振り返ると、鬼はいつの間にか追いついていた。驚いた小僧は2枚目の御札を投げつけた。すると今度は鬼の目の前に深い谷底ができたので、また小僧を捕らえられなかった。それで谷を駆け下り、また駆け上って走ってきた。小僧は、もうこれで良し、と、安心して振り向くと、鬼はいつの間にか、また後ろへ接近している。小僧は鬼の足の速さに驚き、最後の御札をギュッと握って力いっぱい投げつけた。すると今度は鬼の目の前に広い川ができて、鬼はとうとう流されて行ってしまった。その間に小僧は命からがら寺まで逃げ、玄関に腰を下ろしてハァハァと大息をついた。すると和尚が大声で笑っていた。小僧もまた笑った。笑って初めて目を覚ました。これは小僧の夢だった。
これは「三枚の御札」という比較的有名な日本の昔話の類話である。祖母谷温泉の伝説や雪女をはじめ、女の妖怪に狙われるのはたいてい男である。これは偶然ではない。山で働く樵や猟師、山伏にさらわれて慰み者にされた女や売春婦、霊山に住む巫女など、妖怪視されるに十分な女が昔の山にはいたはずだからだ。山村の売春宿に行ったら、思いのほか年老いた売春婦が出てきたので、逃げた・・・この話の解釈としてこれもアリなのではないだろうか。
(参考資料)
越中の民話(未来社)
「旅でもしも弱ったことがあったら、この札投げてみっしゃい」
と、言って御守り札を3枚持たせた。小僧はそれを懐に入れて出かけた。ある時、日が暮れたが、どこにも泊まる所がなく、困っていたところ、ずっと向こうに百姓家の小さな灯りが見えた。やれやれ、と疲れた足を引きずってどうにかそこまで行き着いた。灯りの洩れている破れ戸をトントン叩くと、人の良さそうな婆さんが出てきた。
「旅の者じゃが、どうか一晩泊めてくれっしゃい」
と、頼むと、
「おお、そりゃ疲れたろう。いくらでも泊めて進ぜる。さぁいらっしゃい」
と、言うので、喜んで入った。ところが、寝床へ入ってうとうとしていると隣の部屋でガサガサと変な音がする。小僧が床から這い出してそっと覗いてみると、そこに見えたのはさっきの人の良い婆さんではなく、恐ろしい鬼だった。小僧は、逃げるなら今の内だ、と思い、小便に行くフリをしてその家から逃げ出した。逃げたのがわかると鬼は髪を振り乱しながら追いかけて来た。小僧は足がすくんでしまってなかなか思うように走れない。もう少しで捕らえられそうになった時、和尚から貰った御札を思い出し、一心込めて、
「えいっ!」
と、力いっぱい投げつけた。すると鬼の目の前に大きな山ができたので、鬼は小僧を捕らえることができなかった。そこで鬼は大きな山をヨッソヨッソと登って、また追いかけて来た。その間、小僧も走り続けていたが、もうよかろう、と思って振り返ると、鬼はいつの間にか追いついていた。驚いた小僧は2枚目の御札を投げつけた。すると今度は鬼の目の前に深い谷底ができたので、また小僧を捕らえられなかった。それで谷を駆け下り、また駆け上って走ってきた。小僧は、もうこれで良し、と、安心して振り向くと、鬼はいつの間にか、また後ろへ接近している。小僧は鬼の足の速さに驚き、最後の御札をギュッと握って力いっぱい投げつけた。すると今度は鬼の目の前に広い川ができて、鬼はとうとう流されて行ってしまった。その間に小僧は命からがら寺まで逃げ、玄関に腰を下ろしてハァハァと大息をついた。すると和尚が大声で笑っていた。小僧もまた笑った。笑って初めて目を覚ました。これは小僧の夢だった。
これは「三枚の御札」という比較的有名な日本の昔話の類話である。祖母谷温泉の伝説や雪女をはじめ、女の妖怪に狙われるのはたいてい男である。これは偶然ではない。山で働く樵や猟師、山伏にさらわれて慰み者にされた女や売春婦、霊山に住む巫女など、妖怪視されるに十分な女が昔の山にはいたはずだからだ。山村の売春宿に行ったら、思いのほか年老いた売春婦が出てきたので、逃げた・・・この話の解釈としてこれもアリなのではないだろうか。
(参考資料)
越中の民話(未来社)
上新川郡
昔、ある薬売りがどうしたはずみか死んで地獄に落ちた。地獄の門をくぐると大勢の仲間がいて、
「よぉ、お前もか!お前もか!」
と、言い合っていた。するとそこに鬼が現れ、大きな金棒で皆を押しやり、釜の中へザラザラとさらい込んでしまった。くゎらくゎらと湯が沸いてくると皆、熱い熱い、と苦しみ出したので、薬売りは湯の中へ何か薬を入れてぬるくしてしまった。鬼はそのことに全く気付かず、汗を流して焚き続け、釜の中の者は平気な顔で、
「ええ湯じゃ、ええ湯じゃ。地獄の湯ちゃええのぉ〜」
と、笑っていた。それを見た鬼は、これでは手に負えん、と閻魔様に知らせた。閻魔様はそれを聞いてカンカンになって怒り、
「よぉし、そんな奴らは針の山へぼいやれぇ!」
と言って、人々を針の山へ追い上げた。山中、針だらけなので皆泣いていたが、その中に手品師がいた。手品師は早速、薬売り達を皆背中に乗せ、
「こりゃこりゃ!」
と言って針の山を登ったり、下りたりして遊んでいた。肩に乗った者は、
「こんな面白い眺めはまたとない!」
と、言ってはしゃいでいた。鬼が怒って金棒で叩いたが、今度は薬売りが針の山の上からパラパラと粉薬を蒔いた。それが鬼の目に入って、鬼はおんおんと泣き始めた。それを見た閻魔様は、
「んな(みんな)、こりゃどうもこうもならんやっちゃ。こんなもん地獄の世界にちゃおかれん。人間どものとこへぼいかやせ!」
と、怒鳴った。それで皆、ぞろぞろと娑婆へ帰って来たという。
これと似た次のような話もある。
昔、鍛冶屋と神主と歯抜きをする仲の良い3人がいて、死んでからも3人一緒に地獄へ落ちてしまった。地獄はどこもかしこも白衣を着て、額に三角の白い布(きれ)を着けた青白い顔の亡者が身動き一つ取れないほどウヨウヨしていた。そして順番に閻魔様に裁かれ、針の山や釜茹でなどの責苦を受けなければならなかった。赤鬼青鬼が大きな金棒を振るって亡者達を無理矢理引き立てていくので、皆震えていた。時々キャアキャアと哀しい叫び声をあげる者もいた。やがて三人の順番が回ってきた。最初は針の山へ追い込まれたが、鍛冶屋は得意の腕を振るって素早く鉄下駄を作り、二人にもくれた。三人はそれを履いて針の山を登ったので、平気だった。これを見た閻魔様は激怒し、赤鬼に命じて三人を釜茹でにするよう命じた。首筋を捕らえられた三人くゎらくゎらと煮え返る湯の中へ放り込まれたが、すぐに神主がムニャムニャと祝詞をあげて祈祷したところ、みるみる内に釜の湯が水になったので、三人はいい気になって釜の中を泳ぎ周った。それを見た閻魔様はますます腹を立てて、
「憎い奴らじゃ。おい!お前ら!早うらとこの三人を一口に食ってしまえ!」
と、鬼達に命じた。すると歯抜きはすぐに“やっとこ”を使って素早く鬼達の歯を抜いたので、鬼達はどうすることもできずよだれを流すばかりだった。結局、地獄の責苦は失敗に終わり、閻魔様は困って、
「こんな奴らを地獄にいつまでも置いておけば俺達の仕事の邪魔になるばかりか、他の亡者どもの見せしめにゃならぬ。長居させることは無駄だ」
と考え、青鬼に、
「おおい!青鬼、こいつらを早うらと娑婆へ追い返せ!」
と、命じた。それで三人は娑婆に戻ってしまったという。
(参考資料)
越中の民話(未来社)
「よぉ、お前もか!お前もか!」
と、言い合っていた。するとそこに鬼が現れ、大きな金棒で皆を押しやり、釜の中へザラザラとさらい込んでしまった。くゎらくゎらと湯が沸いてくると皆、熱い熱い、と苦しみ出したので、薬売りは湯の中へ何か薬を入れてぬるくしてしまった。鬼はそのことに全く気付かず、汗を流して焚き続け、釜の中の者は平気な顔で、
「ええ湯じゃ、ええ湯じゃ。地獄の湯ちゃええのぉ〜」
と、笑っていた。それを見た鬼は、これでは手に負えん、と閻魔様に知らせた。閻魔様はそれを聞いてカンカンになって怒り、
「よぉし、そんな奴らは針の山へぼいやれぇ!」
と言って、人々を針の山へ追い上げた。山中、針だらけなので皆泣いていたが、その中に手品師がいた。手品師は早速、薬売り達を皆背中に乗せ、
「こりゃこりゃ!」
と言って針の山を登ったり、下りたりして遊んでいた。肩に乗った者は、
「こんな面白い眺めはまたとない!」
と、言ってはしゃいでいた。鬼が怒って金棒で叩いたが、今度は薬売りが針の山の上からパラパラと粉薬を蒔いた。それが鬼の目に入って、鬼はおんおんと泣き始めた。それを見た閻魔様は、
「んな(みんな)、こりゃどうもこうもならんやっちゃ。こんなもん地獄の世界にちゃおかれん。人間どものとこへぼいかやせ!」
と、怒鳴った。それで皆、ぞろぞろと娑婆へ帰って来たという。
これと似た次のような話もある。
昔、鍛冶屋と神主と歯抜きをする仲の良い3人がいて、死んでからも3人一緒に地獄へ落ちてしまった。地獄はどこもかしこも白衣を着て、額に三角の白い布(きれ)を着けた青白い顔の亡者が身動き一つ取れないほどウヨウヨしていた。そして順番に閻魔様に裁かれ、針の山や釜茹でなどの責苦を受けなければならなかった。赤鬼青鬼が大きな金棒を振るって亡者達を無理矢理引き立てていくので、皆震えていた。時々キャアキャアと哀しい叫び声をあげる者もいた。やがて三人の順番が回ってきた。最初は針の山へ追い込まれたが、鍛冶屋は得意の腕を振るって素早く鉄下駄を作り、二人にもくれた。三人はそれを履いて針の山を登ったので、平気だった。これを見た閻魔様は激怒し、赤鬼に命じて三人を釜茹でにするよう命じた。首筋を捕らえられた三人くゎらくゎらと煮え返る湯の中へ放り込まれたが、すぐに神主がムニャムニャと祝詞をあげて祈祷したところ、みるみる内に釜の湯が水になったので、三人はいい気になって釜の中を泳ぎ周った。それを見た閻魔様はますます腹を立てて、
「憎い奴らじゃ。おい!お前ら!早うらとこの三人を一口に食ってしまえ!」
と、鬼達に命じた。すると歯抜きはすぐに“やっとこ”を使って素早く鬼達の歯を抜いたので、鬼達はどうすることもできずよだれを流すばかりだった。結局、地獄の責苦は失敗に終わり、閻魔様は困って、
「こんな奴らを地獄にいつまでも置いておけば俺達の仕事の邪魔になるばかりか、他の亡者どもの見せしめにゃならぬ。長居させることは無駄だ」
と考え、青鬼に、
「おおい!青鬼、こいつらを早うらと娑婆へ追い返せ!」
と、命じた。それで三人は娑婆に戻ってしまったという。
(参考資料)
越中の民話(未来社)
場所不明
昔、とても貧乏な兄弟がいた。ある日、兄が弟の“ぐつ”に、
「ぐつ、今日は親の法事だから和尚様を呼んで来い」
と、言ったが、ぐつは間抜けだったので、和尚を知らず、赤い衣を着ていると教えられて鶏と間違え、寺にいる、と教えられて寺にいる牛と間違え、何とか和尚を連れて来た頃には日が暮れていた。さておき兄は和尚をもてなそうと思い、ぐつに飯を炊くよう言った。するとぐつはグツグツと音が鳴ったので、自分の名を呼ばれていると思い込んで怒り、釜をひっくり返してしまった。仕方がないので、兄は甘酒でも出そう、と思い、屋根裏から瓢箪(ひょうたん)を降ろしてぐつに瓢箪の尻を持つように言ったが、瓢箪はスッと地面に落ちてパンッと割れてしまった。その時ぐつは自分の尻をしっかりおさえていたという。続いて兄は、
「もういい。風呂でも入ってもらおう」
と、ぐつに湯を焚かせたが、焚物がないとぐつは周りを見渡し、和尚の着物を焚いてしまった。その頃、和尚は風呂の中で、
「ええ気持ちじゃ」
と、喜んでいたという。
間抜けというよりは精神疾患を持つ男の話のように思われる。現代ではおおっぴらに精神疾患を笑いのネタにすることは忌避される傾向にあるが、民話にはこの手の笑い話が多い。
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
「ぐつ、今日は親の法事だから和尚様を呼んで来い」
と、言ったが、ぐつは間抜けだったので、和尚を知らず、赤い衣を着ていると教えられて鶏と間違え、寺にいる、と教えられて寺にいる牛と間違え、何とか和尚を連れて来た頃には日が暮れていた。さておき兄は和尚をもてなそうと思い、ぐつに飯を炊くよう言った。するとぐつはグツグツと音が鳴ったので、自分の名を呼ばれていると思い込んで怒り、釜をひっくり返してしまった。仕方がないので、兄は甘酒でも出そう、と思い、屋根裏から瓢箪(ひょうたん)を降ろしてぐつに瓢箪の尻を持つように言ったが、瓢箪はスッと地面に落ちてパンッと割れてしまった。その時ぐつは自分の尻をしっかりおさえていたという。続いて兄は、
「もういい。風呂でも入ってもらおう」
と、ぐつに湯を焚かせたが、焚物がないとぐつは周りを見渡し、和尚の着物を焚いてしまった。その頃、和尚は風呂の中で、
「ええ気持ちじゃ」
と、喜んでいたという。
間抜けというよりは精神疾患を持つ男の話のように思われる。現代ではおおっぴらに精神疾患を笑いのネタにすることは忌避される傾向にあるが、民話にはこの手の笑い話が多い。
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
立山町芦峅寺
昔、源七(げんしち)という大工がいた。彼は昨年、病死した妻の“せい”を忘れられず、ある時、
「立山地獄へ行くと死者に会えるらしい」
という噂を聞き、息子の源八を連れて地獄谷へ行く決心をした。歩き続けてようやく辿り着いた針ノ木峠で源七は、
「源八、見ろ、あれが立山という尊い山だ。あの山の裏にはお母さんのいる地獄があるんだ」
と叫んでいた。そこから見える立山の頂は静かに白雲がなびいていた。針ノ木峠から地獄谷までの道のりはまだ遠く、険しい谷を下って黒部の川を越え、更にまた登らなければならなかった。また、加賀藩の役人に見つかれば打首になる命懸けの旅だでもあった。
「お母さんに会ったら、うんと甘えていいぞ!」
“おせい”のことを考えながら親子は立山への抜け参り道を急いだという。
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
「立山地獄へ行くと死者に会えるらしい」
という噂を聞き、息子の源八を連れて地獄谷へ行く決心をした。歩き続けてようやく辿り着いた針ノ木峠で源七は、
「源八、見ろ、あれが立山という尊い山だ。あの山の裏にはお母さんのいる地獄があるんだ」
と叫んでいた。そこから見える立山の頂は静かに白雲がなびいていた。針ノ木峠から地獄谷までの道のりはまだ遠く、険しい谷を下って黒部の川を越え、更にまた登らなければならなかった。また、加賀藩の役人に見つかれば打首になる命懸けの旅だでもあった。
「お母さんに会ったら、うんと甘えていいぞ!」
“おせい”のことを考えながら親子は立山への抜け参り道を急いだという。
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
黒部市
黒部の谷は八千八谷とあり、東西を北アルプスに囲まれたところで、人が近付くことが許されない御縮山(おしまりやま)だった。当時は加賀百万石の財力にものをいわせて山と谷の国境に黒部奥山廻り役という見張りを置いていた。奥山廻り役は毎年、命がけで山に登って川を越し、毎日のように剣縄を張って麓からの距離を測ることで山中に異変がないかと調べたり、随所に御境目(おさかいめ)という高札を立てて歩いていた。約1ヶ月の長い仕事も盂蘭盆(うらぼん)の16日だけは餓鬼の首も許されるということで、皆で山中の賑やかな盆踊りを楽しむのだという。その歌声は遠くの山々にこだまして美しい谷川の流れも止めるほどだったという。尚、奥山廻り役は明治に入って廃止された。
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
(参考資料)
民話と伝説 黒部のじじの話
![]()
